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【特集】旅する藤里 「菓子工房 えすぽわーる」後編

【後編】








菊地整さんは、藤里町民祭にも毎年出展している。







 藤里町の「白神街道ふじさと」(産直)や「森のえき」など、町内で作られた商品が並ぶ店には必ず置かれているそば粉のロールケーキやラスクなどのお菓子。手に取ると、「菓子工房 えすぽわーる」と書かれています。

 えすぽわーるとはフランス語で“希望”という意味です。清水岱でこの工房を営む菊地整さんに、工房を始めたきっかけや、お菓子づくりへの思い(前編)に続き、町のこと、これからのことなどについて伺いました。




1000株あるブラックベリーの畑を引き受ける










 ブラックベリーの商品もあります。ブラックベリーは、地元の方が10年間ずっと栽培していましたが、私が引き継いで5年になります。その方が体調を崩して続けられないので、誰か引き受けてくれないかと人を探していました。

 うちにも相談にきました。相当悩みました。その方が今まで頑張ってきた10年間が全部なくなるのは悲しい、誰か引き継ぐのがいいよなと思って、知り合いや若者にも声をかけました。でも、引き受ける人は誰もいませんでした。

 ブラックベリーの木は1000株、2か所に分かれてありました。私は、「半分は引き受ける」と返事をしました。残りの分をやってくれる人をその方が探しましたが、でも誰もいなくてそこを更地にして町に返す話が耳に入りました。

 半分は更地になるのか……と寝られないくらい悩みました。引き受けたら収穫して商品化しないといけない。その自信はない。でももったいない。やっぱり引き受ける決心して夜に電話をしました。そうしたら、その日に枝を切り落とし、翌日に株を掘り起こすとのこと。ギリギリのタイミングで、止めることができました。

 枝を落とした木は翌年の収穫がなかったけれど、次の年からは収穫ができました。ジャムだけでは全てのブラックベリーを使うことは無理だなと思って、色々と商品開発に取り組みました。

 そうすると、いろんな人のつながりができてくる。商談会などを通じて、ブラックベリーの商品開発で県の補助金を受けないかと声がかかりました。2年間、秋田県の補助金を受けながら商品開発をしましたが、自分だけでは限界があります。

 点と点がつながる時があるんですね。九州の鹿児島県霧島市で黒酢の醸造をしている「重久盛一醸造場」の社長が、ブラックベリーを見せて欲しいとここに来きました。そこから甕酢とコラボしませんかという話につながり、3年前に「白神黒漿酢 ブラックベリー飲むお酢」が完成しました。

 まさかお酢の商品ができるなんて、しかも秋田と鹿児島がつながるなんて思ってもいませんでした。ピューレにした原料を提供して、何度かサンプルを送ってもらって、こちらのこだわりを聞いてもらって商品開発をしました。

 そのこだわりとは、アガベシロップを使うことでした。商品開発の補助を受ける時、生産者・販売者のパートナーとして紹介を受けたのが、このアガベシロップを扱っている会社でした。

 話を聞いて体にいい甘味料にこだわるのもいいなと思ったけれど、原価も高い。そうすると、商品価格に響いてきます。でも、アガベシロップは、甘みがあるのに後味がすっきりしていて、グラニューや上白糖の甘みとは違う。黒酢は健康志向の商品なので、アガベシロップとの特徴とも合うと思って使うことにしました。

 使い方は、調味料のお酢のようにドレッシングにも、お水で薄めて飲んでも、ヨーグルトに混ぜても、焼酎などのお酒に加えるのも良いです。工夫次第で色々な使い方ができると思います。

 お菓子の商品としては、ブラックベリーのピューレをロールケーキの生地に混ぜ込んだり、クリームの中にブラックベリーのゼリーを砕いて入れたりして使っています。強みは原料を自分で持っていること。ちゃんと原料を確保できて、思いのままに使うことができる。そこをしっかり貫けば、オリジナル性の高い、強い商品ができると思います。








鹿児島の食酢醸造所とコラボレーションしたブラックベリーの飲む酢。





原料のこだわりがオリジナルな製品を生む


 「藤里白神そば」を製造する時、原料となるソバ粉は大量にあるので、たくさん入れたいという気持ちがありました。市販のそばの場合、食品の原材料表示を見ると大抵小麦粉、ソバ粉の順に書かれています。

 それは、ソバ粉よりも小麦粉の方が多く使われているということなんですが、そこを逆転させたかった。大変なことをやろうとしたので、製造を受け入れてもらうのが大変でした。藤里町周辺から受け入れてくれるところを探しましたが、断れたり、トライしてもらったけれどうまくいかなったり。

 そんな中、秋田県中央会に相談したところ、鹿角の製麺所を紹介され、そば粉を持って行きこだわりを伝えて早速試作してもらいました。こだわりのひとつは、乳酸菌「白神ささら」が入っていることです。白神手作り工房の社長さんから食感や喉ごしが違うから使った方がいいよ、とアドバイスを受けて入れてみることに。

 こうして、やっと念願の「藤里白神そば」を商品化できました。白神ささらはロールケーキの生クリームやプリンにも使っているので、えすぽわーるの商品の特徴のひとつになっています。

 今はソバの栽培はしていません。途中までは主人が作っていましたが、2年前に亡くなりました。主人は生産組合を作りたいと人を集めていたのですが、その矢先に倒れてしまいました。栽培していた土地は藤里町に返したので、今は他の人に作ってもらっています。

 卵にもこだわりがあって、秋田比内地鶏の卵を使っています。コメを飼料にしているので、黄身が白いのが特徴。コメの色、ソバの色がそのまま出るので、ロールケーキ、プリン、シフォンケーキにも使っています。

 地元の食材で製造できないかという思いが強くあります。技術的なことは限界があるので、食材にこだわります。武器は素材です。白神山地の麓で育てているもの、そこで発見されたものを使えるこの恵まれている環境を生かしたお菓子づくりをしたいという思いです。

 最初は正直なところ、秋田市に住みながらここ藤里町で工房をやることに、そこまで思い入れはありませんでした。でも、何年かして、ここでないといけなかったんだなという思いに変わりました。

 「この町の人口は減っていくし、なんでここでお菓子屋さんなの?」と思っている人もいるけれど、ここだから私は生かされているという気持ちです。水、空気がいい。そんな環境で育てられたものを武器にできるんですよ。「何でも白神つけるからうるさい」と言う人もいれば「どんどん使えば」という声も(笑)。決めるのは私ですから。

 





そば粉の比率にこだわって、ようやくみつけた製麺所でつくった藤里白神そば。






町のパンづくり教室で原点に立ち返る


 昨年から、町が主催するパンづくり教室に通っています。参加したのは、まだこだま酵母を使いこなせていない。そば粉とこだま酵母の理想的な手法は完成していないんです。私の原点はそこにある。使いこなせるようになりたい、もう1回勉強したいという思いです。

 長年白神こだま酵母に関わっている津田さんから教えてもらって自分のものにできたらいいなと思っています。

 白神こだま酵母のことは、地元の人でも知らない。わざわざ東京から教えに来てくださって、材料もあって、将来藤里にパン屋ができるかどうかは分からないけれど、なんらかな形で残していかないといけない、町のみんなで作り上げていきたいと思っています。

 私には道具がある。しかも、津田さんが使っていたオーブンもあります(笑)。津田さんはここに来て、感激の再会をしていました。それもストーリーだと思うんです。パン教室が開催されているかもや堂は、カフェを続けていく場所として最適。月1でも続けられたらいいなあ。

 白神こだま酵母と地元の食材で作った「藤里パン」を町の中心にあるかもや堂で販売できたらと夢は広がります。この取り組みは町の活性化のためにも消してはいけないものだと思う。









白神こだま酵母菌は、小岳周辺から採取された土壌から発見された。






よそ者の私が、ここが集大成の場所と思えるように


 ここに来た時、私はよそ者でした。それは当然だし、素人に何ができるだろうという目で見られていたと思います。当時は、そんなことを気にする余裕さえありませんでした。でもそういうところから始まるし、長く続けることによって段々と認めてくれる。 どこでもそうなんだと実感しています。

 やり続けることは本当に大変で、自分でもよくやったなあと、元気でいる限りやり続けたいと思っています。やっとここでいいと、と感じられるようになってきました。

 自分で行動を起こして積み重ねて、仲間ができて、黙っていたら経験できなかったこと、自分の人生の中で誇れることができたと思います。大変だけれど、幸せな時間を送ることができています。

 一生懸命ここでの仕事をやることによって、真剣な人付き合いもできる。そういう仲間もできました。藤里でなくてもそう感じることができるかもしれないけれど、ここが私の集大成の場所です。

 誰かが言っていたけれど、ここは宝の山。ただ、作物を作るのは得意でも、商品化が苦手な地域だから、そこはよそから入ってきた人たちの目で教えてもらうことがいいと。ここは私の遊び場なのかもしれない。

 一生懸命やったり、純粋に向き合うことが、とても大事なことですね。頼ってくれる人がいれば力になってあげたいし、力を貸して欲しい時には自然に応えてくれる人がいる。それが藤里なのかな。今ここにきて、続けられる自信が出てきたようにも思います。後継者はどうするのかは、自然でいいのかも。このままの延長線上で、落ち着くところが見つかるといいなと思いますね。

 ここ藤里だからこそ、町役場からは手厚く対応してもらっている気がしますね。そんな町にお世話になっている気持ちがあるので、力になれることがあったら、私は応えていきたいと思う。winwinの立場でいられたらいいなと思います。







こだわりのブラックベリーの酸味がアクセントのブラックベリーロール。






無理なく現状を維持しながら、チャレンジもしていきたい


 子供たちからは、「頑張っているね」と言われたことはありません(笑)。お酒を飲んだ時に、「私をほめないんじゃない?」と聞いてみたら、「頑張っていると思う。やり続けてすごいよね」と言ってくれました。普段口にはしないけれど思ってくれるんだなと、嬉しくなりました。孫が、「おばあちゃんの仕事を引き受けます」と言うけれど、まだ小学校2年生なので、そこまでは望んでいません。「ありがとう」とは答えましたけれど。

 今は、利益を大きく上げているわけではないけれど、需要があってなんとか応えている状況です。私を支えてくれるスタッフや仲間には感謝しています。

 工房をこれ以上大きくしたい気持ちもあまりありません。自分も年を重ねていくので、これがマックスなのかな。これ以上の仕事量になったら、スタッフを募集するとかして状況を変えないといけない。今のところは、この仕事量でなんとかやれればいいのかなと。

 何かを削ってではなくて、現状を維持しながら、チャレンジもしていきたい。商品を提供するだけではなくて、商品開発の依頼を受けることもあります。自分の仕事が認められたからこその依頼なので、応えていきたいですね。

 白神こだま酵母とそば粉の最適な関係を明らかにしたいです。こだま酵母を使いこなして、美味しいパンづくりができたらいいですね。

 こだま酵母は扱いが難しいからこそ、やりがいを感じます。藤里のみんなでそこを共有して、こだま酵母を使ったパンができたらいいなと思いますね。今は食パンがブームだけれど、噛み締めて味わうパンもいいですよ。かもや堂のカフェで、限定何食で販売してもいいな。早朝に販売できるくらいの力があればいいなと思いますね。











楽しみながらの挑戦は続く。
 





*旅する藤里 まとめページへ
https://www.town.fujisato.akita.jp/kanko/notices/2496
















     ライター : 久保田真理(くぼた・まり)
  
   ライフスタイル誌の編集者、オーストラリアでの写真留学を経て、フリーランスとして独立。国内外の取材を通じて、多様な生活や文化の魅力を発信する。秋田市生まれ、茨城・千葉育ち。趣味は、日本酒、トレイルランニング、ソウルミュージックの世界に浸ること。

 


知られざる藤里の旅は、“大切なものは何か”気付かせてくれるはずです。

このコラムは聞き書きの手法で藤里町ツーリズム協議会が制作しお届けしています。

藤里町ツーリズム協議会 電話0185-79-2115


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    登山にスキー、白神山地の散策など
    ほかでは味わえない大自然の遊びがいっぱい!

    楽しい自然体験・観光施設
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    泊まる?

    藤里の澄んだ空と水は感動の美しさ。
    露天風呂や地元の料理を楽しめます。

    風情たっぷり町の御宿
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    買う?

    大量にはない、手ざわり感ある品々。
    豊かな水が生み出す自然の美味しさです。

    白神の恵みがぎっしり特産品