人間の五感と山菜って調和してるの
名人:中川 ツヨ(なかがわ つよ)秋田県山本郡藤里町
高校生:柴山 一花(しばやま いちか)宮城県古川高等学校 二年

【後編】
6 また来るねで疲れが吹っ飛ぶの
平成20年に地域の人たちとくまげらの会っていうのを結成して、平成22年に清流荘っていう民宿を始めたの。私は出稼ぎしていた経験があるからお客さんの布団敷いても手をついたり布団の上歩いたりってことはしないけど、経験ない人たちは手をついて布団引っ張ったり、布団の上に上がっていったりしてた。だめだめ。それだけはだめだよ。ちゃんと2人で引っ張り合いしてやれって言っていたね。周りも育てながら自分も育てられて。10年間大変だったけど最後はやっぱり面白かった。コロナが原因でやめたというか足も悪くなって、「わたしとっても無理だからやめる」って言ったら、わたしより年配の方ばっかりだったから「おめえやめるっていうんならばおらもやめる」って結局やめたのさ。でももったいないな。本当にもったいないなっていつも思った。休んでるときに「やってないんですか」「やってないんですか」って電話が来るの。今コロナでこういうご時世だしちょっと体悪くしてしまってって断ったけど。勉強して勉強させられた10年間で。やっぱり面白かったなって思う。
民宿は1日1組完全予約制で、来る2~3日前までに予約してくださいって言っていたの。お客さんが来るのに合わせて山菜採って来たり、塩漬けにしていた山菜の塩抜きしたりしていたから。あと、昼にご飯食べに利用してくれた団体さんも多かったね。
民宿には北海道から九州まで様々な地域の人が泊まりに来てくれた。海外からも来てくれたよ。その時に山菜の料理を出すと驚かれたり羨ましがられたりしたね。山菜なんて見たことも食べたこともないって言う人もいたね。そういうところで地域の差を感じるのも楽しかったし、泊まった人との繋がりを感じるのも楽しかった。それに、泊まった後、また来るねって言ってもらえると疲れが吹っ飛ぶの。

ゼンマイ、タケノコの煮付け(左)、ミズ、カノカの炒め物(右)
7 名古屋のおじさんの一言と旅行会社の人が変わるきっかけ
名古屋から泊まりに来たおじさんが、「美味しいけどこんなにいっぱいはいらない、って。品数いっぱいあるからみんな食べたいけど残しちゃえば気の毒だから量少しにして、この品数にして」って。私たち田舎者だから皿いっぱい盛るべ?だからそこがまず発見。それから今度私たち役場に勉強させられたんだ。グリーンツーリズムの勉強。3年間勉強させられたね。そのうちの1番厳しかった先生が旅行会社を経営してる人を連れて来てくれたの。12〜13人連れて。手すりのほこりを探すようになぞっていってトイレと風呂場を1番先に見られたの。でも、会社の人来るってわかってなかったんだけど偶然前の日、掃除したあと道端の草花採ってきて生けて、友達がムラサキシキブのほんとにいい色の枝を持ってきてくれたの。ムラサキシキブって紫の細かい実がつくの。それにリンドウとかのそこらにある草花持ってきて立てたらムラサキシキブの花すごくいい色だ。入った途端にまずそれ言われたね。山に自然の花でもリンドウとかキキョウとかはあるけどそうザラに紫の花ってないじゃない?それで褒められて水回り指でなぞっていたのもああ綺麗にしてるねって言われてああよかったってほっとしたの。
8 食べ物も勉強させられた
料理作って美味しかったって言われればほっとするよね。お客さんの口に合うかな合わないかなとか考えて作るからね。ましてや全然民宿の運営なんて初体験で誰かに習ったわけでもないし自分たちが今まで食べてきたものを出すから自信はなかった。旅行会社の人に、「まず、藤(ふじ)琴(こと)でどういうもの食べてるか出してください」って言われて、色々なものを出したね。寒天とか混ぜご飯とか。羊羹も出したかなぁ。わたしはほんとに田舎者だから(笑)たけのことか棒鱈を煮て持ってきたら「棒鱈はどこでもある。だから何か他のものとたけのこを合わせたらいい」って言ったら今の佐々木町長さんが、「ここは魚も簡単に手に入らないし、冷蔵庫なんてなかったから乾燥した魚を利用するの」「身欠きニシンとかタラとか乾燥させたホッケとかを炊き合わせてたものだ」って町長さんそこで話してくれたの。あと、切るものをちゃーんと揃えること。煮るものでも和えるものでもちゃんと長さを揃えてやりなさいって習ったの。そういうことも勉強になったし、一番厳しい旅行会社の人にきりたんぽではなく一口大に丸めるだまこ出したらこれがいいって。きりたんぽは焼いて硬くなったら年配の人は噛みづらいけどこれはいいなって。「これでいきなさい」って言われた。それ以降はきりたんぽ鍋にしてって頼まれた時以外はだまこ餅を作って食べさせて喜ばれた。名古屋のおじさんから言われたことと旅行会社の人とそこで話を聞いて色々勉強になったね。自分の作るものにも自信持てたし。

ミズの漬物
9山はほんとに面白い!
春と秋で採れる山菜が全然違うの。秋はきのこ類。時期過ぎるときには干したり冷凍したり塩漬けにしたりして保存してた。それを煮たり和えたりして秋にきのこと一緒に食べさせてた。あときのこだけ煮詰めて油で炒めて醤油と味噌で味付けして最後ごま油ちょっと振って提供する。酒飲む人はちょっと味を濃いめにすると喜んで食べた。全部天然のきのこだから何種類入ってるとかわからないから味わって食べてって(笑)やっぱり栽培と天然のきのこは全然違う。山菜はもちろんだけど。だからほんとに喜んで食べてもらえたね。ちょっとした物でも2つ3つでも採れたら分けてもらえるから塩漬けして食べたいときに塩抜きして食べるの。

マイタケの炊き込みご飯
きのこは例えばマイタケ。あと、お盆頃になるとトンビマイタケってマイタケみたいになるんだけど小さいときに採らなきゃだめで、大きくなったらクリーム色で縁がオレンジ色になる。すごく綺麗なんだけどそこまで成長したら美味しくない。香りは良くてシャキシャキしてる。お肉と煮付けて食べると美味しいの。サモダシでも一本だけでなるイチマイサマダシ。あとはブナタケ。名前は同じでも白い茎のと黒っぽい茎のとサモダシの中にもいっぱい種類あるの。一本だけでなるやつは採ったらすぐ悪くなっていってしまうの。まとまって生えるやつはほんとに見事。山に入ると一面に生えててひとりでは採りきれない!あとナメコ、ムキタケ。それからブナハリタケ。こっちではカノカって言うの。煮付けも美味しいんだけど冬はキャベツとかブロッコリーとかと胡麻和えにして食べても香りが良くて美味しいの。あとはキクラゲ。天気いい時は倒木にペタッとくっついていて採れないの。採ればボロボロと壊れちゃう。雨がしとしと降ってる時は水分含んでるから採りやすい。とれたてはしゃくしゃくして美味しいの。他にもタモギタケとかマスタケとか。だから山に行って手ぶらで帰ってくるっていうことはない。何かしらあるから。でも同じ場所に毎年生えるとは限らないからそこも面白いの。何十種類も生えるよ。きのこは手間もかかるし日にちもかかるけど採れば面白い。山菜類も。(ほかの産直方のもいるのでカットがいいのでは)
山菜って私たちにとってすごく身近な存在。あって当たり前だね。毎食必ず何か山菜は食べるの。今朝も食べて来たよ。民宿やってた時は山菜料理が特に喜ばれた。普段自分たちが食べるものと全然変わらないものを出していたけど、民宿に泊まりに来る都会の人はみんなこれ食べるの?って聞くの。全部食べるわけじゃないけどどれかは必ず食べるよって言ったら贅沢だなって言うの(笑)

サマダシの味噌汁
10郷土料理の衰退は寂しい
柿漬けは美味しかったな。渋柿と水と塩で大根を漬けるの。そうすると柿のうまさと大根のうまさで柿も大根も美味しくなるの。渋が全部抜けてなんとも言えない美味しさになるの。今の渋柿で作っても全然味が違う。渋の量が減ってるし種が少なくなってる。昔の渋柿は渋かったし種も多かったけどその分ほんとに甘かった。
料理が継承されなくなってしまうのはやっぱり寂しいなと思う。でもね、去年に秋田県の教育委員会で『秋田県の郷土食』っていう本出したの。全県の料理やまとめたやつ。それ読んで隣の町では同じ名前の料理でも入れる具材が全然違ったり。こういう食べ方もあるんだなって学んだね。
昔は冠婚葬祭の料理って決まった料理だったの。私たちが普段食べる料理とは別物の料理だった。結婚式の時の料理の野菜の切り方はこうで、盛り付けはこうで、お膳に並べる時はこうでとか、葬式の時はもっと難しいの。使ってはいけないものはこれだとかすごく難しかったの。だけど、今の人達はそのような決まりとか歴史もわからずにハンバーグとかステーキとか食べてる。そういう歴史があったんだよって覚えててくれたら役に立つんじゃないかなって私は思うの。やれっては言わないけど。作る作らない別として、知ってて欲しいなって思う。
【取材日:2025年9月19日、11月7日】
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【名人プロフィール】
氏名: 中川 ツヨ
ふりがな: なかがわ つよ
生年月日: 昭和13年2月20日
年齢: 88歳
略歴:
地元でも作り手がいなくなった郷土料理を作ることができ、藤里町の料理名人として知られている。平成20年にグリーンツーリズムを盛り上げるため、地域の有志8名とくまげらの会を結成。平成22年から令和3年まで民宿「癒しの宿 清流荘」の料理担当として中心的に活躍。中川さんの料理は遠方から2週連続で食べに来る人がいる程清流荘時代はファンに愛された。
〈聞き書きを終えての感想〉
初めて行く藤里町にひとりで取材に行くことにワクワクしていたのと同時に不安と緊張が大きく、名人や藤里町のことを何度も調べてから訪問しました。現地に着いてすぐ、役場の方が優しく迎えてくださった上に、送迎や観光案内などもしてくださったおかげで藤里町について深く、楽しく知ることができました。
前泊を経て中川さんにお会いすると、「おはよう」と笑顔で迎え入れてくださったのが非常に印象的でした。取材中も緊張して上手く話を引き出すことができない私に、自身の経験や考え、藤里町のことなどを優しく、丁寧に語ってくださいました。1回目の取材の際、中川さんのレシピで娘さんが作ってくださったお料理をいただき、美味しいということはもちろん、中川さんのような優しさやあたたかさ、そして宮城と秋田で住む地域が違うのにどこか懐かしさも料理から感じました。
今回聞き書き甲子園で中川さんに取材をしたことで郷土料理への興味が高まり、現在学校での探究活動で郷土料理をテーマにして活動を行っています。取材を通じて得たご縁を大切に、これからの生活に聞き書きの経験を役立てていきたいです。
*旅する藤里 まとめページへ
https://www.town.fujisato.akita.jp/kanko/notices/2496
知られざる藤里の旅は、“大切なものは何か”気付かせてくれるはずです。
このコラムは聞き書きの手法で藤里町ツーリズム協議会が制作しお届けしています。
藤里町ツーリズム協議会 電話0185-79-2115
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