研究し作り続けるいぶりがっこ
名人:淡路 アヤ(あわじ あや)秋田県山本郡藤里町
高校生:三浦 寛裕(みうら かんゆう)岩手県立盛岡第一高等学校2年
【後編】
8 漬ける
11月の初めころに米糠と塩と砂糖を混ぜて、それにいぶった大根を漬ける。配合するものを間違えば味違うしね。二か月くらい漬けるんだ。それくらい漬けねば全然こんな味出ねくなる。味がちゃんと回らないの。1樽に1時間半くらいかけて70キロくらい漬けて25樽くらいやる。一段ずつ大根ならべてって、なくなるまで70キロなるまで段々に積んで、20キロくらいの重い石で蓋をする。重いよ。石は売っているコンクリで自分で作った。これもやっぱり一気に重しを追加せねばダメだもんな。汁あがってくるけどそれやらないとおいしくないの。体力十分必要なんだ。だんだん一人で持ち上げられなくなった。我慢してやってれば今度は腰痛くなって。やっぱりきついな。もう何年やれるかなって思ったり。誰かやる人あったらやってもらいたいんだけど。

漬ける時に使う樽
9 発酵止め
いぶりがっこを真空せねばならねえんだけど、その時いぶりがっこに湯をかけるのは分からなかったもんな。こうすればいいんだって聞いて湯さかけたっけ、ほんと膨れねくなったったもんな。漬けた大根を樽から上げて、洗って全部切って、袋詰め。空気しっかり抜かねばならねえ。空気抜いたやつは真空してまた湯通しするの。発酵止めっていって、65度くらいのお湯に30分も40分も漬けるの。それしなければ袋が発酵してぼーうと膨れてくるの。すっかりこの中の菌が死んでしまわないとだめなのよ。発酵菌を止めねばだめなんだって。ただ詰めただけだと一週間たてば、ぱーんと膨らんで破裂する。そうすると売り物にならねえ。味が全然おいしくねえもん。びしっと隙間ない様にやらねばねんだ。袋詰めしたら真空させねばならねえ。この袋詰めするのが1月ごろからだな。
10 小屋が燃えた
いぶりがっこの作り方を考えたのは私。一から考えて。売っているの買って食べて考えて、どうやって作るものだべって思って研究して研究して、今の味にたどり着いた。独自の方法だ。誰かさ聞いたわけでもねえし。5、6年もかかったべな。失敗したときもあった。自分で作った小屋を焼いてしまったこともあった。最初は木の柱を四方に立て、小屋作ってやったもんだもんな。その乾燥した柱に火移って、みんな焼けて。あの時だばほんとびっくりしたな。お昼過ぎに来た時はもう燃えてあったって、行ったら小屋全然ねえでば。全部焼けて、いぶりがっこもみんな焼けてぶすぶす、いぶってすんごいかったよ。なんた(いろいろな)経験もしたった。それは初めのうちだ。そのあとの小屋は鉄筋で組んだ。今は加工所でやってるからその小屋は使ってない。
11 産直あさひ会
いぶりがっこは藤里の白神街道っていう直売所で売ってる。地域で作っている産直あさひ会っていうグループだな。メンバーには農業やっている人とかもいるから。冬になれば干餅とかそういうものもやってる。販売は産直だけで。一人だば続かねえもの。産直の人のみんなに手伝いに来てもらってる。手助けのおかげで今も続いてる。私ははじめから入ったんで、22,3年くらいになるもの。最初は俺も俺もってたくさん周りの人も入ったんだけど、1年、2年経ったっけ、売り物出せなくて半分以上もやめちゃった。今は9人いるな。でも本当にいつまでこれ続くかなって思ってる。

白神街道ふじさと(産地直売所)
12 許可
いぶりがっこは今はどこにもあるけど、保健所から営業許可をとらねばやれねえんだ。許可をとって作り方も基準を満たしていねば、いぶりがっこって名前挙げられねえ。私は取ってるけど、取るって言ったって結構金かかるんだよな。年間なんぼってとられる。表記をたくあん漬けにして、いぶりがっこってラベルにして売るっためっていえばいいのか?結構難しいんだよな。いぶりがっこという(そうしないと)名前を挙げられねえんだな。許可取らねばだめになったの。
13 いぶりがっこ作りのこだわり
こだわっている所はなんていうかな。味がいいって言われるからな、それ崩したくないなって。漬物の大根も他のは「ぐびぐび」で、私のは「パリパリ」ってしてるんだよ。食感も味もいいって結構遠くから買いに来るよ。他さ行って買ったっけなんもおいしくないって。やっぱりここのがおいしいって買いに来るんだ。人好き好きだけどな。
あとは作る時は、あんまりいぶらかしてしまえば中に煙の臭いが入っておいしくねくなる。それに注意してる。あんまり黒くなると見た目が変になる。そういうのに気を付けて、いぶりを強くしないであんまり焼かないようにしている。そういうの好きな人もいるけど、やっぱり結構ちゃんといぶりの臭いはするから、売るってせば(すると)いぶしすぎないようにしている。
14 いままで通りの方法じゃだめ
食品衛生法で前の(自宅の)小屋で作るのもだめになった。いぶらねばいいんだけど、漬けるとこもだめになった。我慢して我慢してやってたが去年からはやっぱだめになったったな。で漬ける場所を変えた。藤里町に応援してもらって小屋を作って加工所も作ってもらって。加工所は漬物の小屋として誰が使ってもいいんだ。これまたお菓子だとか他のものはここでつくれねえ。なんでも作れればいいなあって思ったけど漬物専用だったってば。
添加物をちゃんと表示せばいいんだと。汁物、入っているものちゃんと表示せば。前、売り物を検査したら、表示されたやつと違うって、微妙に何か入っているってしゃべられたもんな。そういうのをちゃんと表示せば、なんも引っかからねんだ。ごまかしてやればだめなんだ。

藤里の補助でできた現在のいぶり小屋
15 それでも買ってくれる
(がっこを販売するには)結構お金かかるよ。何十万ってかかった。砂糖から塩から焼酎から、今度は酢も値上がりしてるもんな。間に合わねえべ。費用かかるから値段上げたんだって。古い方の値段下げて新しい方をなんぼか上げて、そんでも新しい方を買ってくれたもんな。なんぼか古い方を下げればそっちを買っていく人もいるし。新しいのと古いのだと色も変わってくる。黒くなるの。あとは臭くねえからスライスしたいぶりがっこの方が好きな人いる。袋に700グラムってつけて詰めてやる。あとは、(いぶらずに)干したやつ買っていく人もおる。

産直のアヤさんのいぶりがっこ
16 大変だけど楽しさもある
いぶりがっこ作るのはみんな大変だ。大根掘って洗ってだべ、運んできてまた火さあぶってだべ、いぶらかして、なんもみんな大変だ。体力が、すごいよ。でも直売所行けば仲間と話したりして、それさ一番楽しいね。あと、なんぼか金なるからな。金なるからそれが楽しみだったな。なんだかんだ言ったって金ならねば楽しめっこねえ。なんもお金もなかったんでな。
17 いぶりがっこを絶やしたくない
この間までは畑に朝昼晩といた。朝は3時ころ起きて、(畑で)自分の仕事してまた家さ来て、ご飯食べてまた昼まで田の仕事したり畑の仕事したり。そのくらい昔はやったったんだけど、今もう全然できねくなったった。
今はいぶりがっこを絶やしたくないなって思ってや。せっかくだから誰か後をやってくれる人がいればって思ってる。うちの人でねくてもや。私もいつまでも若くないからね。いつどうなるんだか分からねえから。伝授して渡したいなと思うけど、やる人がなかなか見つからない。やめるにやめられねえよな。息子が継いでくれればよかったけど、(今は)何も(どうするか)分からねえって。でもそのうちだれか出てくると思うよ。誰か出てくると思うけどなかなか見つからない。
とにかくほんとに人がいねくなったもんだね。せっかく加工所作ってもらったのでや、絶やしたくないなって思ってる。

上にチーズをのせたいぶりがっこ
【取材日:2025年9月14日、10月26日】
【名人プロフィール】

氏名:淡路 アヤ
ふりがな:あわじ あや
生年月日:昭和18年4月20日
年齢:82歳
職業:農家、いぶりがっこ生産者
略歴:
昭和18年4月20日生まれ。秋田県藤里町で農家として、長年野菜を作りながらいぶりがっこを生産しているいぶりがっこの名人。今までには様々な農業に挑戦しており、今はもうやめてしまったが山ブドウや牛を育てたりもしていた。たまたま売っていたいぶりがっこを食べ、おいしさに気付き作り方を自分で研究し開発した。平成13年に藤里の産直ができてからは産直に出すために生産量を増やした。名人のいぶりがっこはパリパリとした食感が特徴で、県外からも名人のいぶりがっこを求めて買いに来る人がいるほどである。
聞き書きを終えての感想
今回の聞き書きは、今までに経験したことがないほどの貴重な体験でした。名人さん、その家族の方、地域の方など様々な人とかかわる中で改めて人の温かさを感じることができました。時期が合わなかったためいぶりがっこを作っている様子は見られなかったものの、たくさんのお話を聞くことができました。特に小屋が焼けた話は興味深く、アヤさんも楽しそうに話されていてとても印象に残っています。
もともといぶりがっこというものを全く食べたことがなかった私は、取材前かなり緊張していましたが、二回の取材の中で名人さんにお昼をごちそうになったり、優しく話していただく中で自分自身も名人さんの人生をもっと知りたいと思うようになりました。私も新しいことに積極的に挑戦していき自分で研究して形にする名人さんの様に自分らしい生き方を探していきたいです。
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https://www.town.fujisato.akita.jp/kanko/notices/2496
知られざる藤里の旅は、“大切なものは何か”気付かせてくれるはずです。
このコラムは聞き書きの手法で藤里町ツーリズム協議会が制作しお届けしています。
藤里町ツーリズム協議会 電話0185-79-2115
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