山も人も変わっていくんだべなあ
~狩猟の季節、駆除の季節~
名人:武藤 肇(むとう はじめ)秋田県山本郡藤里町
高校生:櫻田 結衣(さくらだ ゆい)青森県 青森明の星高等学校2年
【前編】
1 自己紹介
武藤肇です。昭和27年10月21日生まれの73歳。秋田県藤里町に住んでいます。建築設計事務所を自営していて、趣味で森、川に入り、狩猟をしています。妻と、娘夫婦、それから小学生の孫2人の6人家族です。

狩猟の名人 武藤肇さん
2 山での狩猟に出会うまで
小さいころから銃そのものは好きだったんだけど、当時勤めていた会社の先輩がたまたま射撃やっていたから、俺も1回行ったの。そうしたら、いいなあ、と思って、すぐに免許取った。だから、最初に銃を持ったのは射撃銃。クレー皿が飛んで撃つてのに興味があったもので、そういう風な方向さ行きたいなと思ってやったんだけども、地区に山で狩猟をやっている人が4人も5人もいたのよ。80なる爺ちゃんから我々くらいの連中まで。その人らから鉄砲持って山さ行かねえかって誘われて、山さ引っ張られていって、山も結構おもしろいなあって思って、山と射撃、両方やるようになった。
3 毎日、有害駆除と狩猟のくりかえし
普通の狩猟期間は11月の初めから2月15日まで。有害駆除を町から委託されてるのは、7月の初めから11月いっぱい。それでも最近はなんも7月まで待ってらんねえもんで、熊は4月の末から5月の頭にはもう出てる。だから、4月の末頃から11月の末まで有害駆除をしてるの。11月は猟期さ入ってるんだけども、その1か月は狩猟でなくて有害駆除。んだから、1年いっぱい、有害駆除と狩猟の繰り返しで、2月15日の狩猟期間が過ぎたら、また3月の頭っから10月の終わりまで有害駆除が始まる。こうやって、1年間、熊でも猪でもなんでも駆除できる体制を作ってる。
4 季節とともに巡る狩り
どのハンターも1番先にやるのは、川とか沼で鴨猟(かもりょう)、それから徐々にヤマドリを狩る。鴨ってのは渡り鳥の鴨もいるけど、地元にいるカルガモとかって結構田んぼの米にいたずらして食べて、脂かかるから美味しいの。
それから熊。熊は見(み)明場(あかしば)って、ちょっと高い岩で、狭い所でひと1人、広い所で3~4人座れて、山を2~3キロメートル見渡せる所さ座って熊を探す。
特に、春の熊猟ってのがおもしれえもんで、山はまだ雪残ってて、ブナの花芽が葉よりも先に咲くのだけれど、薄い緑さ少しピンクがかっていて、山の花芽が咲いたところだけもあって、萌(もえ)黄色(ぎいろ)さなる。その中さ穴から出てきた黒くピカピカ光る熊がいるんだもの。どんな人でも見えるのよ。
それから、栗食べる秋の熊ってのは、白い糞を出す。黒い糞は、草とかいろんなものを食ってれば、そういう色になんだけども、白い糞さなれば、肉の臭みも全然なくなるし、脂ものる。だから、狩って食ってもうめえんだよ。
そうやって狩った動物はほとんど自家消費で、食べるのよ。鳥類の場合は、全部毛抜きして、毛は全部捨てる。あとは結構鶏と同じ。鍋にしたり、ちょっと良い鴨であれば、砂肝を炭焼きにして食べたりする。みんな食べ方工夫して食べて、お酒飲んでってする。獲っても獲らなくても、仲間と集まって夜に懇談会する。熊猟なんかはその日1日で終わらなくて、次の日もあるからね。懇談会で明日来れるかとか、ここどうするとか相談して狩りをしていく。
5 山には山の神様がいる
マタギの人だば特に信仰強かったんだけど、昔から山には山神様がいるの。山神様は女の神様で、背丈が1.3メートルくらいで小さくて、長襦袢着て、髪がばっとかぶって、顔はいぼだらけのすごい醜い神様なのよ。んで、その神様はすごいやきもち焼きだったために、特にマタギの人らは狩猟で山さ行くときは、1か月も前から身を清めるためにお母さんとは一緒に寝ないし、ずっと1人暮らし。猟に行くときも、川さ行って身を清めて、山神様が祀ってある所にオコゼを供えて、お祈りしていく。オコゼっていうのは、山神様よりも醜い顔の魚で、それを供えることで、「あなたはきれいですよ、大丈夫ですよ」って捧げるの。だから、必ずオコゼとお酒を置いてあげて、お祈りして山さ入っていく。
なんで、そった醜い神様造ったのかは分からねえけども、狩猟でご飯食べていたマタギの人らは、結婚式やお産の後は1週間は山さ来るなっていう風に、そういうことには厳しいんだよ。我々ハンターは、俺らの代になってからはオコゼの魚買うのも大変だからってのもあって、オコゼの魚を供えたりとか、そういうことはほとんどねえし、山神様の掛け軸もあるけども、俺より若けえ人は山神様の掛け軸そのものも見たことねえ。そうやって、山も人もだんだん変わっていくんだべなあ。
6 先輩から教わったこと
先輩方から続けられていることで、猟に行くときは必ず、自宅にもどるまでおにぎりは1個残しておく。うちから山さ出て自宅にもどるまでの間でどういうことがあるかわからないためにそうするってなっていて、たとえば山さ行って、土砂崩れ崖崩れであったり、雪が深くて帰ってこれない、なんていうが帰ってこれねえ状況を想定して、自宅にもどるまでは必ずおにぎり1個くらいは残しておけよ、と教えられた。食うものさえあれば、なんとか生きていける。山には落葉もあるし、焚火もできるけども、簡単に食べ物調達できるわけでねえし、食うものがなければ、冬場であれば寒さに負ける。だから、人が生きのびるぐらいの食料のおにぎり1個は必ず残しておけよってぇのだね。
これはやっぱり、すごい勉強だよね。
【取材日:2025年9月21日、10月12日】
【名人プロフィール】

氏名:武藤 肇
ふりがな:むとう はじめ
生年月日:昭和27年10月21日
年齢:73歳
職業:建設設計事務所 自営
略歴:職業訓練高校を卒業後、建設会社、住宅会社を経て、昭和59年に独立し自営業に。勤めていた会社の先輩に誘われ猟銃、狩猟免許を昭和54年、27歳の時に取得する。当初はクレー射撃が主だったが、地区内に狩猟をしている人達に誘われ猟に行くようになった。現在、季節により熊などの有害獣駆除と狩猟とを行っている。
(後編へ続く)
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知られざる藤里の旅は、“大切なものは何か”気付かせてくれるはずです。
このコラムは聞き書きの手法で藤里町ツーリズム協議会が制作しお届けしています。
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