山も人も変わっていくんだべなあ
~狩猟の季節、駆除の季節~
名人:武藤 肇(むとう はじめ)秋田県山本郡藤里町
高校生:櫻田 結衣(さくらだ ゆい)青森県 青森明の星高等学校2年
【後編】

狩猟の名人 武藤肇さん
7 狩猟のための道具
狩猟をするときの道具で、かんじきというのがあるけども、これは丸くて、足さつけて足が雪さ、ぬかっていかないように履くやつ。冬なれば、我が町の山だって最低でも1メートル、多い時だと2メートル近くも積もるから、これがなしだと足が雪に埋まっちゃう。でも、そのかんじき履けば、長靴のくるぶしよりちょっとぬかるくらいで止まる。そういう道具も先輩に作ってもらった。
そうはいっても、雪山は雪重くて歩くの3倍も疲れるから大変だから。3~4人で山さ行けば、交代交代で先漕ぎやって、次の人は必ずその跡を歩く。新しい所を歩けば山は傾斜もあるし、疲れるけども、足跡追って行けば少しはましになるのよ。
ほかにも、狩猟の道具には、ナガサってものがあるけども、ナガサはハンターのために鍛冶屋さんが特別に作った包丁のこと。出刃包丁よりも刃渡りが少し上で、俺が持ってるのが刃渡り21センチメートルくらい。その包丁1つあれば、熊であれば熊の皮剥いで、骨まで全部切れる。丈夫な包丁であるために、細かい所もできる。普通のナガサは包丁のように木の柄がついてるけども、フクロナガサっていう、秋田のマタギであった鍛冶屋さんが改良しながら作ったやつは、柄の部分まで鋼でできていて、その部分が筒状になっている。だから、山にある棒とって、その筒の穴さ入れれば槍の代わりに使えるように作ってある。取る棒によって、1メートルでも2メートルでも、自分の好きな長さの槍ができるよ。
なんで槍が必要かってのは、冬眠した熊を穴で見つけた場合に、鉄砲で撃ってしまって殺してしまえば、これを引きずり出さないといけない。だから、ナガサで致命傷にならない程度に怪我させて、引っ張り出して撃つ。先輩方はいろいろ考えたずや。
また、撃つのに使うライフルは、弾は一般に使っているのもので、弾頭が7.6ミリメートルくらいしかねえのよ。火薬が入ってる部分は6~7センチメートルで、それが爆発して弾を押し出している。それで、飛ぶ距離は4000メートルちょっとな。有効射程距離は最高で、310メートルくらいだったかな、それくらいの距離までは撃てる。でも、300メートルも離れていればたいていの人は熊見えねえのよ。我々もよっぽど目を凝らして見れば見えるけどもってくらい。だから、ライフルにはスコープがついている。んで、撃つ時に一番困るのが、スコープがちゃんと合っていないこと。スコープも、車さ積んであったりして、ぶつかったりしてるとずれてしまうのよ。そうなると、何発撃っても全然当たらない。
だから、朝、猟場に行く前に必ず、スコープを合わせる機械あるので、それで自分さ合うようにスコープ合わせて行く。これが大事なことなのよ。
散弾銃の場合は、大体1発、300~400つぶくらいで仁丹くらいの大きさのつぶが入ってるから、30~40メートルくらいの所まで行けば、当たる。
射撃場だと、イヤープロテクターっていう耳を守るものをつけるけども、山だとそういうものはつけないのよ。花火っきゃドンとなるべ、銃の音はあれよりちょっと大きいかってくらいなんだけど、なんも我々には爆竹ぱちんて鳴るようなもの。
服装は、狩猟の時は、仲間同士で間違って撃ってしまうことを防ぐために、オレンジの猟友会で配布したベストや帽子を着てやる。有害駆除の時は、各市町村から配布されたものを着る。我々は保険会社に共済保険をかけてるんだけども、そういう服を着ていないと事故なった時、保険きかねえのよ。だから、配布された服を着ているんだよ。
8 有害駆除の実態

熊が食べた後の栗の殻。綺麗に食べられている。
① 熊
熊は、9月半ばを過ぎたら、毎日のように仕掛けた檻さ入ってるの。熊は昼間は寝ていて、夕方4時半~5時半から、朝の3時~4時まで活動する。だから、朝の2~3時半ってなれば、檻まわっていって、夜が明ければ檻さ居た熊をつぶして、処理して、また新しい餌入れてかければ、その繰り返し。
熊は特に栗なんかよく食っていて、栗のイガも手でがばっと2つにわけて、白い栗を割って口に入れれば、カリカリ噛めば、殻っこぴょいと取れる。口の中で綺麗に食べる仕事してて、動物ってのはそういう特技を持ち合わせているんだなあ。でもやっぱり、熊いれば栗拾いに来れねえべしゃ。拾いに来た時に、熊いたら大変だべ。だからまず先に駆除してくださいってことで檻をかける。檻をかけて1週間から10日くらいすれば、熊かかるんだよ。というのは、檻の中の餌さ我々人間のにおいついているために、檻の周りをぐるぐるまわって歩きはしても、なかなか檻さ入ろうとはしねえんだよ。でも、1週間か10日すれば、だんだん匂いが薄れるのと、熊も腹減ってこたえて、我慢しきれなくて檻さ入る。

熊の捕獲檻
② ニホンザル
ニホンザルも増えて増えて大変なために有害駆除の対象。最近猿はなんでも食べるけども、春先1番に食うのは、玉ねぎとねぎ、その後はかぼちゃ、トマト、じゃがいもだべな。それから、栗。5~6年前までは猿は栗、食わねかったんだけど、熊が美味しそうに食べてるもんだから、猿も今は栗食べるようになった。
猿は、最初は檻かけて、檻さ入った猿の頭とケツさスプレーかけて奥山さ放してやる。スプレーは目印のためにかけてる。1週間か2週間かすれば、また同じ畑さ猿来ていたずらしてるんだけども、スプレーかかったのを見て、同じ猿だって分かる。
でも駆除しねばいけねえけども、我々だって猿を撃ちてくねえのよ。だから、ガスで死んでもらって、焼却場さ行かせてもらう。
ほかにも、カカシを置いての対策もしていて、洋服店でモデルやってるマネキンあるべ。あれに猟友会で配ってるベスト、チョッキ、ヤッケ、帽子を着せるの。これが結構効くんだよ。なんでかっていうと、猿ってのは、人間の3歳児くらいの知能はあるって言われてるために、もの1回見れば、ちゃんとまあ記憶してる。だから、役場の人の車行ってもなんも逃げねえけども、猟友会の服とか我々の乗ってる車を見つけたらもう、とんずら。それくらい、もの覚えてる。

サル対策のカカシ。猟友会で配っている服や帽子を着ている
③ 猪
ニホンジカもそうだけど、猪なんかは、もともとこっちいねかったもので、猪きゃ熊よりも恐ろしいんだよ。前は、猪は我が町みたいに雪の深い所では越冬できないってなってあったのな。ところがここ2~3年、雪の量がすごく少ないのと、気温が冬でも氷点下10度まで下がてっていう日が、3日も4日も続くって日がなくなって暖冬になったために猪もニホンジカも越冬できるようになって増えたの。だから一般の人っきゃ猪の怖さ知らねえずや。それでもって、動物ってやつは自然に順応する力ってのがものすごくあって、1年に2~3頭越冬すれば、そこに住み着くことができるのよ。それで、どんどん増えていく。
そっだ状況だけども、まあ熊も猿も栗好きなように、猪も栗大好物で、木から落ちた栗みんな食うために、猪も捕獲わなを設置してる。猪の罠は円形で、つつの中さ餌入れておけば、猪が鼻突っ込んで、その鼻ががばっとくっつく仕組みになってるの。サイズは、直径12センチメートルって条例で決まってて、それ以上おっきくすれば、熊とかほかの動物がかかってしまう。それでも、猪来る前に狸とかアナグマとかが来て餌食べてまったり、熊が餌とろうとして手入れて、手さ罠かかってまうこともある。

木の元にあるのが猪の捕獲わな。
9 守るべき責任~野生動物と関わるなかで~
テレビでは野生の動物と共存するにはとか言ったりするけども、俺の考えとしては、熊とかニホンザルとか野生の動物と人間が共存っていうことは不可能だと思うのよ。共存できるのであれば、もっともっと何十年も前から共存して、その被害や怪我人が出ないように先輩方らはやったと思う。でも、それができないために今の状況さなってるんだと思うずや。
我々だってやりたくて駆除をやってるんじゃないのよ。狩猟は、熊を追い、人が撃つ、これ1つがゲームだけども、駆除ってのは、腹減って、里さ降りてきた所をまちぶせて、檻さ入れて駆除する。これは本当のだまし討ちだもの。
だから、俺らも、テレビとかで出している駆除の実態に反対する人らの意見だってよく分かるわけよ。わかるけども、我々は、実際に被害を受けた人も熊もニホンザルも目の前で見てる。そいで、農家の人だば、畑の物を食べていっているのに、それを熊にやられたら大変だってのは当たり前だべって分かる。何より、熊などの駆除を行政から頼まれていったん引き受ければ、やっぱり責任もってやらねばねためにな。だから、駆除に反対するのはその人個人の考えだけども、一概に反対って言うんでなくて、被害を受けた人、駆除した人、いろんな人の立場に向き合っていかないといけねえのよなって思うのよ。
【取材日:2025年9月21日、10月12日】

【名人プロフィール】
氏名:武藤 肇
ふりがな:むとう はじめ
生年月日:昭和27年10月21日
年齢:73歳
職業:建設設計事務所 自営
略歴:職業訓練高校を卒業後、建設会社、住宅会社を経て、昭和59年に独立し自営業に。勤めていた会社の先輩に誘われ猟銃、狩猟免許を昭和54年、27歳の時に取得する。当初はクレー射撃が主だったが、地区内に狩猟をしている人達に誘われ猟に行くようになった。現在、季節により熊などの有害獣駆除と狩猟とを行っている。
感想:私の住む地域は、たびたび熊の出没やその被害がニュースで取り上げられます。ですが、私の行動範囲内は比較的そのような熊の被害がなく、取材をするまで私の駆除や狩猟へのイメージは漠然としたものでした。そのため名人の武藤さんの取材では、話1つ取っても知らないことばかりで、びっくりすることも多く、知れば知るほど、もっと知りたいと思うことが増えました。また、気さくに話される武藤さんの言葉の端々からは、山の恵みをいただくという命への感謝と、引き受けた駆除を最後までしっかりやるという責任が伝わり、私の中で狩猟や駆除の世界が広がり、立体的になっていくのを感じました。
武藤さんへの取材をはじめ、「聞き書き甲子園」の活動を通し、改めて、座学や本、テレビで見るだけではなく、実際に自分の体を通して触れることの大切さを実感しました。多様化する現代だからこそ、間接的に見ただけではわからない物事の背景やそこに生きる人々に目を向けていきたいと思います。
*旅する藤里 まとめページへ
https://www.town.fujisato.akita.jp/kanko/notices/2496
知られざる藤里の旅は、“大切なものは何か”気付かせてくれるはずです。
このコラムは聞き書きの手法で藤里町ツーリズム協議会が制作しお届けしています。
藤里町ツーリズム協議会 電話0185-79-2115
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