【前編】
野球場があることから、藤里町の野球好きが集まることで知られる清水岱地区。その近くに、みそづくりの体験ができる「白神の恵体験工房」があります。これを主宰する淡路敬子さんは、思い立ったらすぐに実行、あきらめない精神で、様々なヒット商品を開発してきました。
敬子さんに、工房を始めたきっかけ、食へのこだわりなどについて伺いました。
アイディアを得たらすぐに実行、あきらめない気持ちで数々のヒット商品を生み出してきた淡路敬子さん。
みそがどうつくられるのか、子どもたちが知らないことにショックを受けた
白神の恵体験工房を平成20年(2008年)から開いています。今、作っているのは、みそ、さぶろうドーナツ、ばっけみそ(フキノトウみそ)、シシトウみそ、バター餅、山菜おこわ、マイタケちまき。主力はみそとバター餅ですね。
元々は加工センターに勤めていて、きりたんぽ、ジュース、アイスなどを製造していました。あとはみそ加工グループとして、みその製造も。平成18年に町内の幼稚園の子どもたちが施設見学に来たのですが、みその原料になる乾燥した大豆を知らなかったことにショックを受けました。勉強、勉強の世の中だから、農家の子どもも都会の子どもも同じような環境で育ち、何らかの形で食育をしていかなきゃと思ったんですね。
60歳で加工センターを退職したら、ここで(体験工房がある現在の場所。元は観光案内所)自分のお城を構えようと思っていたけれど58歳の時に取り壊すと聞き、役場の担当者を説得して取り壊しに遭わずに済みました。
「やりたいことがあるから卒業させてほしい」と加工センターの上司に話して、1年をかけて仕事の引き継ぎをして、平成20年の3月に辞めました。それまで1日も休みはいらないから、どうしても3月末で卒業させてほしいとお願いしてね。平成20年の7月ごろに使用許可が下りました。そんなこともあって、頭の中には常に特産品を開発していこうという気持ちがありますね。
みそづくり体験で使用する、ゆでた大豆を素早くすりつぶす器具。肉をミンチにするものを使用。敬子さんの時短アイディア。
こちらから出向いて、豆腐づくりを教えることも増えてきました
みそ、みそづくり体験だけでは食べていけないので、自分が作れるお惣菜などいろいろと組み合わせてやっています。最初は、みそづくり体験を小学校3年生だけを対象にやっていたのですが、今はいろんな人を対象にしているし、あちこちで出張体験もやっています。
秋田の自然食の会に呼ばれたり、去年は男鹿の公民館事業としてみそづくり体験、豆腐づくり体験を数か所でやりました。藤里では使用できる設備が限られてしまうので、出張体験が多くなってきていますね。秋田県田代町から親子会が藤里に来てくれたことがあって、その時は湯ノ沢にある農村環境改善センターを借りて、豆腐づくり体験をやりましたね。昔は正月近くになると、豆を持ち寄って、みんなで豆腐づくりをしていたんですよ。
豆腐づくりは型がなくても、ザルがあればできます。夜につくって、朝食のみそ汁に豆腐を入れるといいですね。豆乳も飲めるし、出たおからは煮物にするだけじゃなくて、ひき肉と混ぜてパン粉の代わりに使ったりもできますよ。
男鹿の人たちには大豆を煮るところから教えています。だから、行く前に大豆を水につけておいて、とお願いしてね。圧力鍋なら18分くらいで炊き上がるし、鍋でも水を足しながらこれぐらいの硬さになるまで、と教えています。あとは、ぶなっこ教室(藤里町の旧坊中小学校で開催される自然体験教室)に参加したお客さんが、みそづくり体験に来ることもありますね。予定していた町の行事が雨が降ってやれない時に、室内でできることとしてやることも。
豆腐づくりについて説明する敬子さん。大きな木枠は手作り。
みそづくり体験が身近になるにはどうしたらいいのか、考えました
通年を通してみそづくり体験ができるよう、準備しています。パックにする機械を買って、常に豆を煮てパックして冷凍して。こうじも手作りです。豆を煮るところから始めると大変だから、どうしたらいいのかなと考えてね。豆は自然解凍するか、電子レンジで解凍してすぐに使えます。
ここで体験するだけでなく、家庭でもできる手づくりみそセットも販売しています。煮た大豆2パック、こうじ、塩のセットで1500円。ここでの体験は1200円にしています。数年前、東京・銀座での催事に出店した時、5セットだけ持っていったことがあり、そこで興味を持ってくれる人がいて、こういうものが売れるんだと思って。
昨年、町の商工会が東京ドームで開催されるふるさと祭り東京(毎年1月、10日間開催)に出店する際に、銀座でセットが売れたことを報告したら、ふるさと祭りにも出すことになりました。それで今年も出したら、20セット売れたんですよ。前の年に買ってつくって、また今年も買いに来たお客さんもいましたね。今ではみそそのものよりも、売れるようになってしまったみたい。
東京ドームのフェアは宣伝効果があって、早速バター餅の注文が来ました。東京在住の秋田出身の方から25個。大きいサイズと小さいサイズの2種類を作りました。バター餅の本場・北秋田市にはない抹茶味、小倉味もあって、進化していますよ(笑)。
通常はあまり見かけない小さいサイズができたのは、町内の女性が東京で同級会があるのでバター餅を持っていくとなって、「個装されていればいいなあ」と言ったのがきっかけでした。
今度はまた別の機会で、何か混ぜたものが食べたいなあと誰かが言ったのがきっかけで、「待っててよー」という感じで味つきのものを開発。バター餅のふるさと北秋田市には、味つきはないんですよ。開封して時間が経つと縁がカピカピになってしまうので、一人で食べる場合は小さいサイズがオススメです。
みそづくりキット。ゆでた大豆2パック、手作りのこうじ、塩、容器がセットになっている。
バター餅を研究して、東京の人でも食べやすい味にアレンジ
バター餅を作り始めたのは、北秋田市で再現が始まった7、8年前から。インターネットでレシピを探して3つのレシピを選んで作り、その中から一番好みのレシピを選んで、砂糖の量を研究して悩んでいたところに、東京・有楽町のむらからまちから館(全国の特産品を扱うアンテナショップ)、「バター餅できませんか?」と声がかかってね。
私のものは本場でないから、本場ものと自分が作ったもの両方を送って食べてもらいました。「東京の人は甘いものを好まないから、砂糖が控えめの方が好みです」となって、私のバター餅が採用されたんですね。1週間に2回50個ずつ送っていました。だから1か月に400個。
餅をついて、翌日切って、梱包しての繰り返し。注文が入ったら、相手の希望日に合わせて送れるように、冷凍して用意しています。待ってくださいとは言いたくないから。大変になって欲張らないようして、今は“むらからまちから館”に出しています。何かあっては一番怖いので。
今ちょうど、検査機関にお願いして、日持ち検査をしています。二ツ井にある道の駅でもっと賞味期間が長いものがないか聞いてきた人がいて、私は責任を持てる5日間の賞味にしていたけれど、それを機に正式に検査すればいいんだよなと思って。勝手に日にちをつけてカビが生えてきたりしたら迷惑をかけるので。
菌に関する3つの検査をして、もし1週間でカビが生えてきたら、賞味期限は5日間としかつけられない。検査の結果を待ってから、出荷する予定です。大きいお店に出荷するとなったらプレッシャーはありますね。バター餅の端っこはパックできないから(笑)、友達や子どもが来た時におやつにあげようかな。
新しいみそづくりキットを考案中。プラスチックの樽を木樽に変え、藤里の石を重石としてつける予定。
東京のニーズやヒントをつかんで、商品に結びつける
みそは、町内だと白神街道ふじさと(産直)、森のえき、二ツ井の道のえき、東京の“むらからまちから館”で買えます。むらからまちからには最初、1㎏のものを送っていたんだけれど、東京の人は小さい方がいいとなって途中から500gのパックに変更しました。白神フェアで恵比寿三越に出したこともありますね。藤沢のフェアにも出しています。
院内岱のアヤさんのいぶりがっこも一緒にフェアに持っていくそう。いぶりニンジンが少し入って、わざと浸け汁も入れています。その方がジューシーでおいしいから。アヤさんは自分でダイコンを作って、いぶすところからやって漬けています。高齢になってきたアヤさんに、手伝うから頑張れって言ってるの。頼まれたら断れない性格で、使命感でやっていると思う。
お客さんの要望に応えていったり、他の地域でこれは!と思ったものを見つけたりして、段々と商品が増えていきましたね。お稲荷さんの皮におこわを詰めた商品ができたのは、東京のデパート地下食品売り場で見つけて、これなら私にも作れるかもと思ったのがきっかけ。
夏場はお休みしていますが、今は二ツ井の道の駅で販売しています。曜日ごとに売れる数を判断して、作る量を決めて出しているの。土日は生産量を倍にするとかして、売れ残りをなるべく出さないように工夫していますね。
このお稲荷さんを見るまでは、マイタケご飯を作ってもそのままパックに入れて販売することしか頭になかったの。それでこれを見つけた時に、やってみようと思って。それから味の調整に試行錯誤しましたが、納得のいく味にたどり着きました。どうやったかは企業秘密です(笑)。
院内岱在住のアヤさんのいぶりがっこと、敬子さんのみそ。白神山地の特産品の展示販売会で登場することが多い。
(後編へ続く)
*旅する藤里「淡路 敬子さん」 後編
https://www.town.fujisato.akita.jp/kanko/notices/1964
*旅する藤里 まとめページへ
https://www.town.fujisato.akita.jp/kanko/notices/2496
ライター : 久保田真理(くぼた・まり)
ライフスタイル誌の編集者、オーストラリアでの写真留学を経て、フリーランスとして独立。国内外の取材を通じて、多様な生活や文化の魅力を発信する。秋田市生まれ、茨城・千葉育ち。趣味は、日本酒、トレイルランニング、ソウルミュージックの世界に浸ること。
知られざる藤里の旅は、“大切なものは何か”気付かせてくれるはずです。
このコラムは聞き書きの手法で藤里町ツーリズム協議会が制作しお届けしています。
藤里町ツーリズム協議会 電話0185-79-2115
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